少年の名はジルベール

「少年の名はジルベール」
このタイトルを見てピンときた方は、わたしと同じく1970年代の少女漫画の黄金期を知っている方でしょうね。
マーガレット、少女フレンド、少女コミック、りぼん、、、懐かしい。
当時、世の中の女の子はみんな少女漫画を読んでいたと思います。
かくいうわたしも少女漫画で成長したひとりです。(笑)

ジルベールはあの「風と木の詩」の主人公の少年の名前です。
そして本の著作は竹宮惠子、もちろん「風と木の詩」の原作者です。

この「風と木の詩」が少女コミックに連載されていた当時、わたしは中学生でした。
大胆な少年愛の描写に驚きつつ、ちょっとついていけない感じではありましたが、それでもジルベールの不思議な魅力に魅せられて毎週読んでました。(笑)

この本は今や少女漫画界の大御所になられた竹宮先生の青春の回顧録です。


今だからこそ書けるんだろうな、と思わせる大変興味深い内容でした。
この本で描かれている内容は、当時わたしが毎週少女コミックを読んでいたあの中学生のときを思い出させます。
あの漫画はあんなすったもんだがあってできたのかと思うと感慨深く、そして同時代の漫画家、萩尾望都への嫉妬が混じりあった複雑な心境が正直に語られていて、ああそうだったのかと胸がキュンとしてしまいました。

萩尾望都の「トーマの心臓」「ポーの一族」は今もわたしの本棚にあります。
この漫画でギムナジウムという男子の寄宿学校を知りドイツの文化に触れました。
萩尾望都の書く背景は竹宮惠子がいうように、美しい絵画のような、映画のシーンを見ているような深い森の中や空気までも感じたものでした。
そして、少年が主人公という新しい世界にどっぷりとつかってしまったのです。
特に「ポーの一族」は、話の中に複線がたくさん張り巡らされ、さまざまな枝葉の話が幾重にも広がっていて、物語をより深く壮大なものにしています。

そんな素晴らしい才能がそばにいるという苦しさと焦りで、のたうちまわるような日々を送った後、竹宮惠子自身が「ファラオの墓」(エジプトを舞台とした歴史漫画) でスランプを脱したと書かれています。
この「ファラオの墓」おもしろかったです。
滅亡した王国の生き残りの王子、サリオキスの流転の日々と復活を描いたものなのですが、敵である悪役のスネフェルの孤独感に同調したファンがたくさんいました。この作品は確かに竹宮惠子の新境地だったと思います。
そして、その後「風と木の詩」が世に出たのです。

同時代、他にも大島弓子の猫を少女のような主人公にした「綿の国星」、山岸涼子の聖徳太子の若いころを題材にした「日出処の天子」など独特の世界観をもった作品が次々と出てきて、やはり黄金期だったのだと今改めて思います。それからしばらくして池田理代子の「ベルサイユのばら」も生まれました。

竹宮惠子はその後「地球(テラ)へ」が大ヒットで映画化、萩尾望都の「トーマの心臓」は舞台化されています。そして両氏ともに紫綬褒章という名誉を授与されています。
本当にすごいことですね。


本書では最後にこう記しています。

若いころの友人というものは、振り返ればあの一瞬にも思える時間の中で、なぜ巡り合えたのだろうか。それ自体がこの世の奇跡だ。(以下略)
こんにちは、そして、さようなら、素晴らしい時間たち。

かつての漫画少女たち、そして若いクリエーターたちにも読んでもらいたい一冊です。
そして、もちろん漫画もね。

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